概要
「戦車」を辞書などで調べると、おおむね以下のように説明されています。
戦車(英語名:タンク(tank)、ドイツ語:パンツァー(panzer))
火砲および自動火器を備え、無限軌道*1により道路以外を走行する能力と、強力な装甲板による防護力とを備えた車両。
*1無限軌道:履帯、キャタピラ(Caterpillarはメーカー名、意味は毛虫)のこと
陸上自衛隊には大砲と無限軌道を備えた車両が多く存在していますが、戦車として運用されているのは現在3車種です。「戦車」を前線で敵戦車と戦うことを想定した車両と考えると、戦車とそれ以外の分類がしやすいかもしれません。
歴史
戦車は第一次世界大戦時にイギリスが制作したマークⅠによって初めて運用され、その後ドイツ、フランス等も実線投入していきました。戦車としての基本的な形状を確立したFT-17(フランス)、第二次世界大戦から冷戦時代に8万両以上生産されたT-34(ソ連)、同時期にアメリカで5万台以上生産されたシャーマン、第二次大戦中最強と言われたティガー(ドイツ)などが有名です。
第一次世界大戦時は前線で歩兵を支援するように運用され、それなりの戦果が確認されました。第一次大戦後、各国は戦車の運用方法を研究し、戦車を中心として歩兵・砲兵などを統合編成した機甲師団や戦車連隊が編成されていきます。
第二次世界大戦が始まると、まずは運用方法に勝るドイツの機甲師団が成果を上げていきますが、戦争後期になると生産数で勝るT-34(ソ連)やシャーマン(アメリカ)が活躍しました。 冷戦時は第1~第3世代と開発が進みましたが、冷戦後は開発に停滞がかかり、現在の最新戦車は第3.5世代に分類されます。
陸上自衛隊の戦車
現在運用されている陸上自衛隊の戦車は74式、90式、10式の3種類です。(74式より前には61式がありましたが、現在は運用されていません)
主な特徴は以下の表にまとめます。
種類 | 主砲 | エンジン | 最高速度 | 重量 |
74式 | 51口径105mm | 空冷2st 10気筒 720馬力 | 約53km/h | 約38トン |
90式 | 44口径120mm | 水冷2st 10気筒 1500馬力 | 約70km/h | 約50トン |
10式 | 44口径120mm | 水冷4st 8気筒 1200馬力 | 約70km/h | 約44トン |
見分け方
・74式:砲塔が丸く、履帯(キャタピラ)の中の転輪(中間下側の丸い輪)が5つ。

・90式:砲塔が四角く、転輪は6つ。履帯にカバーがついている。

・10式:砲塔がクサビ形(とがっている)。履帯にはカバー+ゴムカバー

※キャタピラ(caterpilla:毛虫)は重機メーカーの名称。正式名称はクローラ、履帯、無限軌道という。
74式
出典:陸上自衛隊ホームページ
90式
出典:陸上自衛隊ホームページ
10式
出典:陸上自衛隊ホームページ
自衛隊戦車の変遷
自衛隊創成期は、アメリカ軍に供与されたM4中戦車 通称シャーマンを運用していました。しかし、これは第二次大戦時に開発された古い車両のため、いつまでも使い続けるわけにはいきません。対ソ連のための新型車を日本が開発することになり、そこで開発されたのが第1世代の61式です。
戦車にかかわらず、武器というものは敵に対して同等またはそれ以上の性能が求められます。戦車対戦車の戦いにおいて敵に勝つためには、砲の性能と機動力で勝ることが必要になります。仮想敵の戦車に勝る性能を保つために、戦車は世代交代を繰り返してきました。61式以降、第2世代の74式、第3世代の90式、第3.5世代の10式です。ただし、日本国内で戦車が戦うということは、国内に攻め込まれてるということですが・・・
2021年現在、運用されているのは74式、90式、10式の3種類です。今後は防衛戦術の変更により保有数が減っていくと思われます。なお、61式以降すべての自衛隊の戦車は三菱重工で開発・生産しています。
74式
74式は1974年から生産が始まりました。1989年に生産を終了するまでに873台生産されましたが、現在の保有数は百数十台にまで減っているようです。
主な特徴は以下になります。
乗員4名
車長・操縦士・砲手・装填手の4名で運用する(90式/10式は装填が自動化されたため3名)。
主砲
イギリスの51口径105mmライフル砲*:L7A1を日本製鋼所がライセンス生産したもの。
* 砲の内径:105mm、砲の長さ:(105×51=)5,355mm。ライフル砲:砲身内に施条(ライフリング)がある
油圧式サスペンションによる姿勢制御
日本の山岳地での戦闘を考慮し、地面が水平でないところでも砲塔を水平に保つ、丘などの稜線から砲塔だけを出して攻撃する稜線射撃が可能、悪路走破性が高いなどのメリットがある。
90式
90式は1990~2009年までに341台生産され、北海道の北部方面隊、富士教導団に配備されています。
90式は東西冷戦時、ソ連機甲部隊と戦うために開発された戦車で、以下の特徴があります。
乗員3名
車長・操縦士・砲手の三名で運用
主砲
44口径120mm滑空砲:ドイツのラインメタル社製
滑空砲は前述のライフル砲とは違いライフリングがないもので、抜弾抵抗(銃砲身内を進む弾が受ける抵抗)が小さい、砲身への負荷が小さい(砲身を薄くできる)などのメリットがある。また戦車の装甲が強くなるに従い、回転する弾が威力の低下につながることが分かってきたため、滑空砲が主流となっていった。
複合装甲
セラミック系の複合装甲を採用し軽量化を図っている。44口径120mm滑空砲による耐弾試験では、被弾後砲塔と車体の両方に被弾痕が確認できたが自走することができた。
10式
10式は74式の後継として開発・配備され現在に至ります。90式までの技術を盛り込みつつハイテクを満載した車両です。主な特徴を列挙します。
ネットワーク化
10式同士をネットワークでつなぎ、モニターで仲間の位置、残弾数などを共有できる。
軽量化
約50トンあり北海道以外での運用が難しかった90式に対して、全国で運用するため小型・軽量化を図った。それにより74式を輸送するトレーラーで一部装甲を取り外した10式を輸送することができる。
高性能なパワートレイン
74・90式の2st(2サイクル)エンジンから4st(4サイクル)に変更され、燃費の向上・黒煙の低減が図られた。燃費向上により搭載する燃料も減らすことができ、軽量化に貢献している。変速機はHMT:油圧機械式無段階自動変速操向機を採用し、スクーターのハンドルのようなものでアクセルとブレーキを操作する。 10式戦車は第4世代と分類される場合もあります。しかし第4世代自体が定義されていないため、第3世代の改良と同じ第3.5世代と言われています。